【日記】2021年12月3日(金)

 なんとか粘ってみたが、草稿を一度投げ出すことにする。ああまたやってしまった。どうしても自分の書いている原稿の道筋に納得がいかない。自分では今使える史料を駆使してなんとか論文の形を作り上げた(というより、でっち上げた)とは確信しているが、私の心のなかに棲む、善意をもつ読者が「so what?」と、悪意をもつ読者が「N’importe quoi?」と繰り返し語りかけてきて、何も答えられないことに気づく。

 前々日に記したように、「鎖国」が続く今の時点では、史料そのものを増やすことはできない。だから二次文献で突破口を作るしかない。今、首ったけになっている人物が日本(語)で残した限られた言説からどのような意味を汲み取っていくか。無論、昔から人文学が陥りがちな、特に我々に残された痕跡が少ない場合にありがちな、過剰な意味づけや強引な解釈とはなるべく距離を取らねばならない。どんなに少ない痕跡でも、まずは文字通りに読むことを心がけよう。

 また、一気呵成に書くやり方を自分のなかで相対化したい、いやするのだ。複数の研究計画を同時で進めるので、またありがたいことに依頼仕事が増えてきたこともあり、毎日何らか文章をアウトプットしておかないと月々の締切に間に合わないことは目に見えている。無論、博士課程の学生である以上は、博論に集中するのが建前であるし、究極的には一人の人間が行き着く問題意識は一つなのであろうが、発掘してしまった知の鉱脈は、そんな人間の都合など省みてはくれないだろう。

 

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